EMDRはPTSD（Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害）に効果があるといわれており、最初の研究ではベトナム戦争の帰還兵、レイプ被害者、性的虐待の被害者を対象にEMD（眼球運動による脱感作法）を行いました。研究では不安感の低下、フラッシュバックや悪夢の改善、自分自身に対する肯定的な信念を持てるようになるなどの効果があることが示されました。その後もたくさんの研究や臨床でEMDRの効果が示されています。

【不登校になってしまったASD児にEMDRを行った例】

ASD（自閉スペクトラム）の子どもはコミュニケーションの特性から学校で苦労することも多いといわれています。友だちと話していて自分が発言すると周囲が黙ってしまうことや、みんなの輪に入れずに教室で一人きりで過ごすことなど、大きなトラウマとはいえませんが当人にとってはとても辛い経験となることがあります。そのような比較的日常的な出来事によるトラウマにもEMDRをおこなうことができます。

友だちとの関係がうまくいかずに不登校になったASD児に対しEMDRをおこなった事例では、「私はダメな子」という認知が「私は悪くない」に変化、成長している自分に自信をもち、悪夢や息苦しさもなくなり、少しずつ登校ができるようになったと報告されています（篠崎,2021）。

篠崎志美（2021）「自閉スペクトラム症児の日常的なトラウマ体験にEMDRが奏功した症例」EMDR研究,第13巻1号,51-58p,日本EMDR学会．

【休職に至った記憶に対しEMDRを行った例】

職場での強い不安やストレスなどを感じる労働者は６割に上っているといわれ、メンタルヘルス上の理由により休職される方も多くいらっしゃいます。休職されていた方が円滑に職場復帰できるようにあらかじめ休職から復職までの流れを明確にする必要があると考えられています（厚生労働省）。休業期間中に安心でいられるよう、不安や悩みを相談できる場所を設けることや、復職のための心のケアやサポートなども考慮する必要があるといわれています。

職場の環境調整やリワーク、カウンセリングなどにより不安感が低減していくかと思いますが、休職に至ったネガティブな記憶が残っていると症状がなかなか回復されない場合があります。EMDRではネガティブな記憶の整理をおこない自分自身に対する否定的な考えを変えていきます。

職場不適応に対しEMDRをおこなった例では、ストレスフルないくつもの出来事が重なり職場に行けなくなり、「私は無力だ」「生きていても意味がない」と不安でさみしい思いをした方が、EMDRのセッションを何度か繰り返したところ、「やれることはやった」「やれる限りのことをした」と認知が変化していきました。復職後も焦りすぎず落ち着いて仕事ができ、職場の仲間のなかにも入っていけるようになり、職場適応ができたと報告されています（小川,2015）。

厚生労働省ホームページH3102_職場復帰支援の手引き+.indd (mhlw.go.jp)2023.11.9参照

小川邦治（2015）「職場不適応症に対するEMDRの適用」EMDR研究,第７巻26-36p,日本EMDR学会.

ASD・ADHD